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仏になったら仏を殴れ_介護現場のQandA長尾和弘医師

河本院長座右の書、

生老病に関する「質問」と「長尾和弘医師の回答」集

この本、お勧めいたします。

Q:寝たきりになって4年、母の胃ろうをはずしたいです

40代の女性です。67歳のときに脳梗塞から寝たきりになった母が胃ろうになって丸4年が経過しました。私は母に胃ろうをつけることは反対でした。しかし、兄と父が、「お前、母ちゃんを見殺しにするんか?」と言い張ったため結局私が折れました。しかし、兄も父も、まさか4年もこの状態が続くとは思わなかったようで、「もう疲れた」とか「いつまで続くんかな」とか言っています。

一番世話をしているのは、私なのに。「だからあのとき言ったじゃない!」と言うと、「医者から胃ろうをつけなければ死ぬと言われたらつけるのが当たり前やんか!、お前は冷酷なんだよ」と罵られる始末。正直。兄と父が憎くてたまりません。

母がかわいそうです。医者に訊いても、今の状態では、胃ろうははずせないと言います。私が勝手にはずしたら、犯罪になるのでしょうか?

A:選択肢はひとつではありません

  たいへん悩ましい質問ですが、胃ろうで4年も延命できたのですからまずは率直に良かったと思います。ただし、お母様が「口から少しでも食べられて」、「意思表示ができる」ならばの話です。もしそうであれば「ハッピーな胃ろう」ですし、そうでないのならば「アンハッピーな胃ろう」に思えますが。もし胃ろうをしないで早々に亡くなっていたら「やっぱり、してあげていたら、、」と後悔しているかもしれません。大切なことは過去を振り返ることではなく、これからどうするかだと思います。
  よく「胃ろうをはずす」と言いますが、僕はそんな言い方はしあせん。胃ろうは「使う」か「使わないか」だと思います。すなわち栄養剤を「入れる」か「入れないか」です。そして二者択一ではなくて、どれくらいのカロリーや水分量を入れるか、つまり栄養剤や水の量の加減です。いきなりゼロにするという選択肢は僕のなかにはありません。今、あなたや主治医がそれをすると、「安楽死を行った」として殺人罪に問われる可能性があります。
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  しかし、もしお母様がリビングウイル(LW)を表明していて、かつ死期が迫っていると2人以上の医師が判断するのであれば、家族とよく相談したうえで栄養剤の中止や減量が可能とされています。実際、僕もそのような条件の方を何人か減量したことがあります。ところが、です。その半数以上が亡くなるどころか元気になったのです。ただ、1ヶ月以内に亡くなられた人も2名いました。
  お母さまの場合はどうやら死期が迫っている状態ではなさそうですね。であれば、人工栄養の中止は困難です。しかしカロリーや水分量を少し減らすことは主治医との相談で可能かもしれません。寝たきりになり人工栄養だけで4年間経過している71歳であれば、長い目で見れば年々死期が迫っていることは間違いないとも考えられます。しかし、減量することで、一時期より元気になる人もいます。
  今後ですが、人工栄養に関しては自然に任せるのが一番ではないでしょうか。いずれ必ず肺炎を併発して限界が訪れます。それまでは見守ってあげるのがよいかと思います。あなたもご家族も心身ともに介護疲れの極致におられます。正常な判断能力をお持ちだとは言い切れません。今、極端な行為をすることがあとで大きなトラウマになる可能性もあります。
  だから、ショートステイの大幅活用や特養などの施設入所を勧めます。または行ったり来たりできる介護サービスとして、胃ろうであればまずは介護小規模多機能(カンタキ)がお勧めです。
  あるいは、2018年4月から新設された「介護医療院」を探してください。両者ともに在宅医療扱いです。入院や施設入所ではありません。近くでそのようなものを探して要介護度にあわせた外部の手を借りてください。一人で背負うのは間違いです。 あなたのようなご家族は世の中にたくさんおられますが、多様な療養形態が用意されています。当然、地域差はありますし情報は少ないです。しかし探せば必ず見つかるはずです。ケアマネさんや主治医とよく相談してください。地域包括支援センターや医師会でも相談窓口を設けています。
  僕としては、せっかく今まで頑張ってこられた親孝行を、この先、後悔するものにはしてほしくない気持ちです。

介護医療院 介護保険法(2018年4月改正)により旧来の「介護療養型医療施設」に代わって新たに用意された施設である。